今回は2021年3月4日に開催された「介護外国人材と共につくる職場環境4ステップセミナー」内でいただいたご質問に回答させていただきます。
今回のご質問 |
では、さっそくはじめましょう!
Q7:海外の介護状況、特に近隣のアジアでの介護について、制度、慣習、意識など知りたいです
- 近隣のアジアでは、日本でいう介護保険制度(社会保障)の整備はないに等しく、国や地域によって、自治体レベルでの支援がある
- 介護と看護の区別が大差なかったり、宗教の観点から「施し」と捉えている国もある
- 同じ国でも地域、慣習、関心、知識によって、個人の返答は違うことがあるため、正確な情報を確認する
近隣のアジアでは、日本でいう介護保険制度(社会保障)の整備はないに等しく、国や地域によって、自治体レベルでの支援があるようです。
また、寄付金のもとボランティア活動で成り立っていたり、家族でお世話をしていたりする場合もあります。
富裕層であれば、自助の考え方で、介護(生活支援)を購入しているようです。
介護に対しては、看護と区別が曖昧だったり、看護補助と捉えていたり、宗教の観点から「施し」と考えていたりするなど様々です。
母国で看護大学に通っていたという外国人の方とお話をしてみると、専門職としての看護の概念(職域)が日本とは違う国もあります。各国における看護師の養成課程にもそれらが反映されているようです。
先日、ベトナム人留学生2人と話しているときに、
「ベトナムには日本のような介護保険制度はないですよね?」
と質問してみたところ、1人は
「ありません!」
と言い、もう1人は
「あります!」
と二人とも自信をもって同時に言いました。
そして二人で顔を見合わせ、ベトナム語で返答の違いを確認し合っているようでした。
そのあと
「ありません」
と自信なさげに言うので
「日本のような介護保険制度はないってことですよね?保険料を納めて、利用する介護サービスです」
とフォローを込めて再確認すると
「ありません」
と笑顔を見せました。
他の場面でも同じような経験があり、聞く相手の地域、慣習、関心、知識などによって返答の違いを感じています。
私の質問の仕方も、彼女たちには言葉不足や不適切で、誤解が生じたのかもしれません。
外国人職員の方が「(介護職が)思っていた仕事ではなかった」と話していたので聴いてみると、母国の看護大学を卒業していて「日本の介護職はベトナムの看護師と同じ仕事だと思っていた」と残念そうでした。
入国の際の説明に問題があったのかもしれませんが、就労開始時に『日本の介護・介護職』についての捉え方を確認しておくとよいでしょう。
日本でも介護保険制度と介護予防・日常生活支援総合事業と保険外サービス(自費サービス)があり、正確に答えられない介護職員がいます。正しくかつ最新情報かどうかの確認が必要ですね。
*JETROのWEBサイトでは、地域・分析レポートにてアジアの介護制度などについての記事や調査報告書が紹介されています。
【JETRO公式WEBサイト】
Q8:インドネシアとフィリピンのEPA介護福祉士候補者はN5程度で来日し、研修後に9割がN3程度以上で施設に派遣されると国際厚生事業団の報告にあります。
一方、ベトナムは来日前にN3取得が必須です。
ベトナムとインドネシア、フィリピンの介護福祉士国家試験の合格率の違いについて、日本語能力以外の要因はありますか?
- 介護福祉士国家試験の合格には、個人の基礎学力、自律学習力、モチベーションといった個人要因と、事業所での教育研修、業務量やシフト、上司や同僚・家族からのサポートといった環境要因が影響する
- 働きながら試験に合格するには、受験者と指導者任せではなく組織としての合格に向けたサポート体制を整備することが大切
- ベトナムの候補者はインドネシア・フィリピンの候補者と比べ、日本語総学習時間と介護福祉士対策に充てられる学習期間が長い
教育者としての意見になりますが、主に6つの要因が考えられます。
個人要因入国前、本人が生い立ちから培ってきたものです。
① 基礎学力・学歴・教育歴
本人の資質に加えて、各国の義務教育課程は基礎学力に影響します。
基礎学力に母国での学歴・教育歴が本人の能力になります。
日本語は言うまでなく、合格には重要項目ですね。
② 自律学習力
教員や指導者、家庭環境によって、自律学習力が備わります。
③ モチベーション
働きながら国家資格の取得に向け計画的に努力するには、趣味活動や休息などを上手に活用し、モチベーションを維持する力(ストレスマネジメント力)も必要です。
入国後、本人が職場から支援してもらえるものです。
④ 教育研修
職場支援としての 教育研修は介護福祉士国家試験合格には必須です。
業務を遂行するための教育指導ではなく、介護福祉士国家試験対策としての指導を計画的に行います。
⑤ 業務・シフト
教育研修を業務時間に組み込む、勉強に取り組みやすいようにシフトに配慮するなど、職場での理解と協力も試験合格に影響します。
試験日が近づけば、体調管理のためにも配慮が必要です。
⑥ 上司・同僚・家族からのサポート
身近に信頼できる人がいるか、合格に向けた協力体制を整えてくれる人がいるか、日本人含め介護福祉士国家試験に合格したモデルケースがあるか、教えてくれる人がいるかなど、周囲からのサポートも重要です。
ある施設では、EPA介護福祉士候補者を受け入れた1年目、合格者は一人もいませんでした。
外国人材の試験対策を担う側(管理職)にとって初めての経験であり、「指導力不足」と「日本語学習機会が外国人材任せで不十分」でした。
2年目からは【日本語】【介護の日本語】【試験対策】の3つのテーマで教育計画を立て、年々内容を充実していきました。
また業務中に数時間、勉強時間に充てる日を作り、夜勤の回数を調整し体調にも配慮しました。
日本人職員の不満があがったこともありましたが、丁寧な説明を繰り返し、協力体制を作っていったそうです。
8年くらいでようやく安定した教育ができるようになり、近年では、受験者の8割が国家試験を合格できるようになったそうです。
組織をあげての取り組みですね。
介護福祉士試験合格を支援する教育担当者は、どのように指導してよいのか迷う場合「① 基礎学力」「② 自律学習力」「③ モチベーション」の3つの項目に当てはめて、受験者をアセスメントしてみてください。
会話や簡単な質問
「(母国で)日本語はどんな風に勉強していましたか」
「勉強に疲れたら、何をしてリフレッシュしますか」
などで、個人の勉強法や課題が顕在化されます。
ですが、働きながら試験に合格するには、指導者と受験者の二人三脚だけでできるものではないとも感じています。
組織としての合格に向けた体制「④ 教育研修」「⑤ 業務・シフト」「⑥ 上司・同僚・家族からのサポート」を整備し、ようやく、合格へのステップになっていきます。
受験者のやる気をサポートし、日本人職員の理解と協力を得るためにも、受験者と日本人職員の教育連携 のフォローに尽きると思います。
補足③ 日本語総学習時間と介護福祉士対策の学習時間
介護福祉士国家資格の合格には、日本語総学習時間と介護福祉士対策の学習時間も大事なポイントです。 図1の通り、インドネシア・フィリピンの候補者は、ベトナムの候補者と比べて、日本語総学習時間・介護福祉士対策の学習期間が明らかに短いです。これが合格率に影響していると考えられます。
図1:ベトナム、インドネシア・フィリピンEPA介護候補者の訪日前後の日本語研修期間の比較図 |
《バックナンバー》
~回答してくれた先生~
山本 陽子 先生 介護職として従事した後、人材育成や職場環境づくりを支援。 |