Q&A第9回

介護専門家山本先生のQ&Aコーナー(第9回)

今回はこのようなご相談が寄せられています。

認知症がある利用者に外国人職員が些細なことで怒鳴られました。
それ以来、外国人職員から「かかわることが怖い」と言われてしまい、
その利用者を避けているように思います。
認知症ケアについてどのように指導すればよいでしょうか。

メッセージありがとうございます。

高齢者介護に従事する職員にとって、認知症がある人へのかかわりは欠かせませんね。
2021年4月から、無資格者は認知症介護基礎研修の受講が義務付けられ、先日お会いした外国人職員の方は、学びの機会に喜んでいました。

さて、ご相談の外国人職員の方は、どんな些細なことで怒鳴られたのでしょうか?
また、外国人職員は〈なぜ〉怒られたのか、正しく理解していますか?

認知症がある利用者の中には、適切なケアがされないと怒鳴るなどの症状が出る場合があります。
職場に相談できる人がいなければ、その後も適切な対応方法が分からず、避けるようになることもあります。

そこで今回は「外国人職員に対する認知症ケアの指導と支援のポイント」を解説します。
外国人職員を指導する日本人職員の方や、これから外国人職員の採用をご検討中の施設様にも役立つ内容となっておりますので、最後までお付き合いください。

認知症ケア指導のコツ

外国人職員が抱く認知症のイメージや知識レベルの把握

超高齢化社会の日本では、「認知症」は広く知られていますが、国によって一般的ではありません。
また、認知症は目には見えない脳の疾患です。
その知識がない場合、怒鳴る利用者に対して、それが認知症の症状であるとは想像できないかもしれません。

ぜひ、外国人職員に「認知症という病気を知っていますか」と質問してみてください。
入職前であれば「聞いたことがある」「知らない」などの返答があるかもしれません。
入職後であれば、失礼ですが「かわいい」「子どもみたい」という肯定的なニュアンスの回答もあれば、「何度も同じことを聞いてくる」「覚えていられない」といった返答もあります。
あるいは、「こちらの言うことをわかってもらえない」「こちらの言うことをきいてくれない」など、認知症=やりづらい利用者という印象になっていることもあります

認知症ケアは介護職にとって、業務の多くを占めるケアであるため、ご質問にあるように「怖い」という感情を抱けば、仕事自体が苦痛になりかねません。
外国人職員に認知症を疾患として正しく理解してもらい、対応できるように指導しましょう。
外国人職員がひとりで思い悩まないための支援方法

外国人職員に認知症を疾患として理解させるための指導方法

1. 症状について専門用語を使用せず、分かりやすい日本語を使用する

まずは外国人職員に『中核症状』(認知症の症状)について説明します。
日本語力が十分ではない外国人職員には、専門用語は理解が難しいため、表1のような分かりやすい日本語を使って、症状の特徴と対応方法を説明しましょう。

中核症状 分かりやすい日本語の説明例
記憶障害 聞いたことを覚えていられません。
すぐに忘れます。同じことを何度も聞きます。
はじめて答えるときのように、答えてください。
見当識障害 身の回りのことがわからなくなります。時間や場所を間違えることがあります。
例えば「ここがどこなのかわからない」「部屋の番号がわからない」「何時かわからない」ということがあります。
分からなくなっているときは、教えてあげてください。
理解・判断力の障害 話を聞いて、考えることがむずかしいです。
自分ひとりで決められないことがあります。
一緒に考えて、お手伝いしてください。
実行機能障害 ひとりで最後までやることがむずかしいです。
できないところをお手伝いしてください。

2. 基本の対応方法やかかわり方を具体的に教える。

次に、認知症がある利用者への基本の対応方法を具体的に教えます。
たとえば、

① 笑顔でかかわります。
② ゆっくり話しかけます。
③ 困った時は、職員を呼びます。

などです。
利用者の不安が、怒鳴るなどの症状を引き起こすことを伝え、笑顔で関わることを指導しましょう。

基本の対応方法を教えたら、実際に指導者が認知症のある利用者を対応しているところを見てもらいます。
外国人職員が認知症ケアに対して不安を抱かないよう、穏やかにコミュニケーションがとれる軽度の認知症利用者の対応をみてもらいましょう。

指導する際には、観察ポイントを具体的に示します。
例えば「Yさんは認知症があります。『ケアしているときの私の表情』を見ていてください」などです。
ただし、一度に複数のポイントを示すと、理解が難しくなる可能性があります。
「表情や立ち位置、声のかけ方」など小分けにして指導をすると、学びやすくなります。

また、外国人職員に利用者の見守りを指導する際は、
「Yさんは認知症があるので、よく見ておいてください」
「Mさんは認知症があるので、気をつけてください」では、
「何をよく見るのか」「何に気をつけるのか」が曖昧で、外国人職員は不安に感じます。

指示出しの際は、必ず観察ポイントを教えておきましょう。

3.  ある程度の日本語力や経験がついてきた外国人職員への指導について

業務や利用者に慣れてきたら、専門用語を使い、症状と関連づけて説明します。
例えば「Tさんは、今、聞いたことを覚えていられないので、何度も同じことを聞いてこられます。認知症の記憶障害といいます」などです。

専門用語を用いることで、介護福祉士対策にもなります。

☆ 相手に寄り添ったケアに繋げる指導方法

利用者が<できること>に視点を向けられるように指導します。
例えば「覚えていられなくても、何度も聞いてくることはできますね」などです。

また「わからないことが多いと不安ですよね」と一言添えれば、利用者の気持ちを想像することができ、相手に寄り添ったケアに繋がっていきます。

外国人職員がひとりで思い悩まないための支援方法

〇 指導者との相談の機会をつくる

ご質問の外国人職員のように利用者に怒鳴られたり、ケアを拒まれたりすることが続くと、「自分は外国人だから拒否されているのではないか」と悩みを抱えることがあります。

それについて指導者から拒否が起きる理由や対応方法が示されなければ、利用者に否定された怖さから、本来の能力が発揮できなくなり、離職に繋がる可能性もあります。

言語や文化が異なる外国人職員は、些細なことで孤独や疎外感を感じる人は少なくありません。
日頃の声かけや、定期的な面談など相手が相談しやすくなるきっかけを作りましょう。

〇 外国人職員と利用者の交流の機会を作る

利用者の中には、過去の経験やメディアなどで得た情報などから、外国人職員に対しネガティブな反応を示される方もいます。
利用者の方に「外国人」ではなく、「○○さん」と認識してもらえるよう、指導者が間を取り持つことも大切です。
例えば、指導者が仲介し、外国人職員の人となりが伝わるように紹介をしたり、外国人職員の国の文化などを紹介するレクレーションを実施したり、利用者との交流の機会を作ったりするなどです。
利用者との関係構築を支援し、認知症ケアの土台を作っておきましょう。

まとめ

まとめ

今回は「外国人職員に対する認知症ケアの指導と支援」について解説しました。

上記のような認知症ケアの指導を受けた、ある施設の外国人職員の方は「最初は、認知症がある利用者のAさんが、他の人の上着を自分のものだと言ってケンカしているときに、Aさんに『違います!間違えています!』と言って、余計に怒らせてしまいました。
でも、認知症について教えてもらい、Aさんが自分の物と他の人の物がわからなくなっているんだと理解できました。落ち着いて、Aさんに上着を見せたら、わかってくれました。」と振り返っていました。

認知症ケアは経験だけで習得していくのではなく、知識と経験の両方が必要ですね。
日本語力がまだ十分ではない外国人職員には、専門的なことを言葉で深く理解することは容易ではありませんが、「平易な日本語を使って説明する」「指導者が実際に見せて示す」「外国人職員にさせてみて指導する」ことで、知識を身につけることができます。

今回のブログが外国人職員の教育に、お役立ていただけたら幸いです。

※事例は個人情報・プライバシーの保護に配慮して編集しています。

山本陽子 ~回答してくれた先生~

山本 陽子 先生
㈱ケア・ビューティフル 代表

介護職として従事した後、人材育成や職場環境づくりを支援。
また、留学生や外国人介護人材の教育担当も務める。
「書いて覚えて活用する!介護の日本語ドリル」など教材・著書多数。

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