今回はこのようなご相談が寄せられています。
外国人職員が入職して半年が経ち、ある程度の仕事ができるようになりました。
今後の人材育成についてアドバイスをお願いします。
入職して半年が経てば、夜勤を含めたすべてのシフト(夜勤は個人の職能、配置人数、施設構造により、2ヶ月目から、2年目以降など、法人によって様々)を担っていたり、重度者の身体介助を一人で対応できたりするかもしれません。
さらには、BPSDが顕著に出現していなければ、認知症がある利用者とも難なくコミュニケーションがとれているかもしれませんね。
※ BPSD:認知症の行動・心理症状のこと。不安、一人になると怖がったり寂しがったりする。怒りっぽくなる、イライラ、些細なことで腹を立てるなど。(参考:厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」)
日本人職員に対しての育成と同様に、外国人職員の育成についても個人の資質(向き・不向き)が影響するため、各施設で教育計画に違いがあっても、指導者の皆さまは悩みながら向き合う日々だと思います。
今回は、ある程度の仕事をできるようになった外国人職員の育成について、以下のポイントで解説します。
- 介護職(職業)に対しての誤解やズレを調整する
- 介護職としての将来ビジョンを共有する
- コミュニケーションとメンタルサポートを継続する
介護職(職業)に対しての誤解やズレを調整する
久しぶりにお会いした外国人職員のGさんは疲れている様子です。
デイサービスに入職して1年程経ちますが、3ヶ月目に入った頃から「人がいなくてたいへん」と漏らしており、半年を過ぎた頃には「指導者とも顔を合わせることがほとんどない」と嘆いていたので気になっていました。
「私のことを手伝ってくれません。掃除やゴミ出しなど、日本人はやってくれません」
みなさんは、Gさんの訴えをどう感じますか?
よく聴いてみると、どうやら、Gさんはフロア待機(お茶出しや話し相手、排泄介助、体操やレク等)の担当になっていると言います。
次々に利用者の要望に応えながら業務を遂行し、懸命に体操やレクレーションのメニューを考えても、「日本人のレクレーションの方がいい」と利用者から比較される言葉を受け、自信を失くす日々だとGさんの表情は陰ります。
以前は、「入浴介助を教えてもらっている」と笑顔をみせていました。
指導者に確認したところ、Gさんに入浴介助を教え始めたところ、日本人職員の離職が相次ぎ、人手不足でゆっくり指導している時間が持てず、結局、フロア担当のようになっているとのことでした。
Gさんは心身が疲弊するなか、掃除やゴミ出しを雑用と認識し、「介護業務以外を押し付けられている」と誤解していたのです。
その誤解がGさんの孤独感にもつながっていました。
実際は、指導者はGさんに対して、「仕事の覚えが早く、よく気づき、助かっている」と感謝していました。
一方で「高く評価していたため、状況を理解してくれていると思い込んでいた」と省みていました。
指導者には、ゴミ出しや掃除は、衛生面を保つための介護職の業務であることの再指導と教育計画の見直し、現状についての説明を勧めました。
コミュニケーションとメンタルサポートを継続する
さきほどのデイサービスに勤めるGさんの面談を進めていくうちに見えてきたことがあります。
それは「自分がこれだけ頑張っていることを知ってほしい」という切実な願いでした。
指導者の感謝を代弁しましたが、Gさんは堰を切ったように号泣しながら「簡単にこなしているのではなく、必死に努力しているんです!」と憤りや哀しみが止まらなくなりました。
Gさんの了承を得て指導者に伝えたところ、指導者は驚き「何かあれば相談してくると思っていた」と省みていました。
ここ2年程は、新型コロナウィルスの影響で、仕事以外での交流や気晴らしなどの外出、趣味の活動も制限され、母国にいる家族や恋人などにも会えず、さみしさを増強させていたのかもしれません。
朝礼や終礼など顔を合わせる機会は会話のタイミングです。
日常の一言は、関係構築の一歩です。
「ひとりで抱え込まない環境」を作りましょう。
介護職としての将来ビジョンを共有する
外国人職員がシフトを担えるようになると、「この先」を考えるのは自然なことです。
自施設での長期就労を期待したり、「本人のために」と介護福祉士資格の取得を勧めたり、あるいは、日本人職員の場合は注力していなかったものの「受け入れ側の責任」との認識で、受験に向けた教育体制を強化したりする施設もあるようです。
外国人職員と施設のビジョンが合致している場合は、合格を目指し、二人三脚ができますが、在留期限までの就労と決めている外国人職員にとっては、負担にしかなりません。
なかには、それが原因で居づらくなり、離職を視野に入れるケースも聞きます。
逆に、資格は個人努力で取得するものという考えで、それぞれの在留資格に応じた在留期限までの就労を最終ビジョンにしている施設もあります。
これも、双方で合致していない場合は、離職を視野に入れる傾向にあるようです。
教育計画に面談を盛り込んでいるかと思います。
心身の様子や日々の業務を確認するだけではなく、半年を目途に、将来のビジョンを話題に挙げておきましょう。
職場環境や待遇、給料などに疑問を感じた場合、多くの外国人職員は、SNSを通じて日本で同じ介護職として働いている仲間に相談をします。
地域性により基本給や各手当の金額が違っても、「高い」「安い」の2択で現状を捉えがちです。
しかし、「あっちの給料が高いから転職」「介護福祉士の勉強を教えてくれないから転職」に直結しないのは、「職場での人間関係を外国人職員自身がどう感じているか」によるからです。
職能と心情に応じた教育は欠かせないと考えています。
まとめ
今回は外国人職員の人材育成について解説しました。
外国人職員は、日本での仕事、介護の仕事に夢や目標をもって挑んでいます。
「家族の経済支援のため」「自分の将来のため」の人もいれば、もちろん、「消去法」で、介護職を選んだ人もいるでしょう。
目の前の仕事を覚え、生活に慣れることに必死な毎日から、半年以上経てば、介護職としての価値観が生まれ、現状への疑問や他者比較が生じます。
そばにいる指導者、日本人として、「自分に何ができるのか、どういったかかわりができるのか」私自身も考えていきたいと思います。
※事例は個人情報・プライバシーの保護に配慮して編集しています。
~回答してくれた先生~
山本 陽子 先生 介護職として従事した後、人材育成や職場環境づくりを支援。 |