介護専門家山本先生のQ&Aコーナー(第6回)

前回は「外国人職員が指示を出したとおりにやらず、事故を起こしてしまいました
というご相談をいただきました。

今回は外国人職員から、このようなお悩みが寄せられています。

指導どおりにやったのに怒られました。
利用者は怒っていないし、ケガもしていません。
指導者には聞きづらいです。
どうしたら、いいでしょうか。

指示出しと指示受けの立場から、真逆にも聞こえる状況ですね。
このようなトラブルを避けるために、今回は介護現場でよくある事例を挙げながら、トラブルの対応例や指導のポイントについて解説いたします。

ポイント

  • 指示受けの課題は外国人職員の日本語力だけではない自覚をもつ
  • 「察する」を含めた指示出しは行わない
  • 指示受けの理解度と達成度(行動)は分けて指導する

指示受けの課題は外国人職員の日本語力だけではない自覚をもつ

日本語に慣れない、または日本語能力試験でN4レベルの外国人職員には日本語力を上げてもらわないといけませんが、指導者の指示の曖昧さが成長の妨げになっていることもあります。
以下のケースがどうして起きたのか、どうすればよかったのかを考えてみてください。

【事例1】
「お湯を見てきて」と外国籍職員に指示を出し、「どうだった?」と聞いたら「ありました」と返事された。
【対応例1】
「お湯を見てきて」は、「これから入浴するのに適切な温度か確認してきてください」という意味ですよね。
職場に慣れている外国人職員であれば、意図を理解できますが、入職後まもない職員は、言葉どおりに受け取るかもしれません。

その「確認」は

  • デジタル掲示を読み取るのか
  • 湯音計で測定するのか
  • 実際に手をつけて確認するのか
  • 「手でつけて確認」は、指先で確認するのか
  • (指先は熱い、ぬるいなど、自分の体感の影響を受けやすいため)手首や肘まで浸けるのか

などを具体的に示すことで、
外国人職員は正しく指示を理解し、適切な行動がとれるようになります。

【事例2】
「あちらの利用者は認知症があるので、よく見ていてください」と指示を出したら、利用者同士でトラブルになった時も、職員を呼ばず、見ていただけだった。
【対応例2】
「何かあれば日本人の職員を呼んでください」まで伝えておけば、起きなかったケースですね。
「何かあれば」は入職時期や資質によって、具体的に示しましょう

  • 利用者が困っていたら
  • 利用者が助けを求めたら
  • 転倒した場合は無理に起こさず
  • トイレと言われたら

など具体例をあげ、「職員を呼んでください」と伝えておきます
ちなみに、入職後すぐに、仲裁を求めるのは難易度が高いと思います。

【事例3】
「食器を片付けておいて」の指示に対し、テーブルにあるお皿やコップを片付けました。
それでも、指導者は、気が利かないと嘆いています。
【対応例3】

  • テーブルを拭くところまで求めているのか
  • 食器を洗うところまでを求めているのか

なにをもって、行動の完了なのかを伝える必要があります。
逆に下膳だけを想定していたら、テーブルを拭いてくれていたと感動している指導者もいましたよ。

【事例4】
「そこに置いたメモに目を通しておいてください」と指示を出したが、メモどおりに行動しなかった。
【対応例4】
「そこに置いた」は、日本人でもどれだかわからないことがありますね。
「目を通す」のような慣用句は外国人職員にとっては、理解が難しいことばです。

  • メモを見たら完了なのか
  • メモを見て、分からなければ指導者へ質問するのか
  • メモを読んだ後、指導者から説明を受けるのか

やはり、行動の完了が何かが曖昧なので、明確にしましょう。
指導者がメモを介し、伝えたと思っている場合、トラブルに発展します。

「察する」を含めた指示出しは行わない

指導者の考えや状況から察して行動することは、異なる文化や習慣、価値観を持った外国人職員にとって、むずかしいことです。
「ここまで言わなくても状況からわかるだろう」「常識だからわかるだろう」といった『察する』を含めた指示出しは、行わないようにしましょう。
入職当初は、「やさしい日本語」を活用して、具体的な指示出しをするように努めましょう。

※やさしい日本語
やさしい日本語は、普段使われている言葉を外国人にもわかるように配慮した、わかりやすい日本語のことです。
日本語の持つ美しさや豊かさを軽視するものではなく、外国人、高齢者や障がいのある人など、多くの人に日本語を使ってわかりやすく伝えようとするものです。
難しい言葉を簡単な言葉言い換えるだけでなく、身振り手振りで示したり、絵や写真を使ったり、漢字にルビをふったりなど、いろいろな工夫をすることで、相手にとってわかりやすいことばに変わります。
参考:出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン

指示受けの理解度と達成度(行動)を切り離して、指導する

教育指導は
① 知らない
② 知っている(理解できる)
③ 行動できる
の3段階で考えると、指導内容や方法を整理しやすくなります。(図1)

図1

たとえば、おむつ交換の手順は知っているけれど、実際にやってみると、おむつの中心がずれてしまったり、漏れがあったりするのは「方法を知っている(理解できる)けれど、行動できない」という状況です。
コツを掴めなかったり、回数をこなしていなかったりして、行動できないのは「方法を知らない(理解できない)から行動できない」とは違いますね。(図2)

図2

「知っている」と「行動できる」を切り離して外国人職員の教育を行うことで、課題が「外国人職員の日本語」なのか、「指導者の指示出し」なのか、現状の分析・改善がしやすくなります。

まとめ

仕事をするうえで、外国人職員に日本語力の向上を求めるのは自然なことです。
ですが、指導者として時折、指導や指示出しと期待した結果のズレを振り返ることが大切です。
外国人職員とコミュニケーションをとりながら、わかり合っていくしかないのかもしれませんね。
お互いに安心で健全な職場のチームケアにつなげていきましょう。

外国人職員の方は、慣れない日本での生活や仕事で、悩むことがたくさんあると思います。
自分ではどうしたらいいかわからないときは、一人で抱え込まず、まずは職場にいる話しやすい日本人スタッフや支援スタッフに話を聞いてもらいましょう。
話をすることで、解決の糸口が見つかることがあります。

※事例は個人情報・プライバシーの保護に配慮して編集しています。

山本陽子 ~回答してくれた先生~

山本 陽子 先生
㈱ケア・ビューティフル 代表

介護職として従事した後、人材育成や職場環境づくりを支援。
また、留学生や外国人介護人材の教育担当も務める。
「書いて覚えて活用する!介護の日本語ドリル」など教材・著書多数。

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